この本の帯に「法律書も弁護士もいらない!最小の手間で最大の効果をあげる戦略・戦術を公開」とある。弁護士をいらないと言われちゃ穏やかじゃないなと思い、つい手にとってしまった。
著者は様々な形で住民運動に関わり、つい最近では西武グループの総帥、堤義明氏を告発して起訴に至らしめた方だそうである。西武グループの乱開発や行政との癒着を住民の立場から糾し続けて来たと前書きにある。大したものである。
しかし、この本は住民運動の勝利や敗北を報告するルポルタージュではない。時折経験的に様々な運動歴・運動経過が語られるが、それは運動方針を提示する際の例証としてなので、若干の感想が付加されるにしても、その面からは読者に余り感興を呼び起こさない。だから、住民運動の経過や苦楽を読みながら運動家や参加市民の心情に即して一喜一憂する、という読み方は出来ないのだ。
しかし、極めて実践的で例えば「訴状」の書き方という弁護士顔負けの箇所もあり「書式はA4版。横書きで」なんて書いてある。そういう意味で住民運動家には本当に「マニュアル」そのものである。しかも、公害反対などのいわゆる住民運動だけでなく、同じアパートの迷惑住民にどう対処するかという実践的方法も教示してあるので、普通の市民が何らかのアクションを起そうとした場合ないし起さざるを得ない場合には頼りに出来る一冊である。言わば社会生活の救急マニュアルとして、家庭の医学書的に備えておいて損はないと思う。
読み物としてはその意味で感興は薄いが、提示される運動方針から逆に照射される経験を想像してみると、中々感慨深いものがある。マニュアルとして方針化する際の裏にある著者の経験と強靭な教訓抽出の意思も透けて見えるので、そのうち著者のルポルタージュの方を読んでみようと思っている。