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2005.06.05(日)

反定義 新たな想像力へ

辺見庸×坂本龍一

本書は、2002年3月に朝日新聞社より刊行された対談集の文庫化されたものである。このお二人の対談が行われた時期がどういう時代かを知る必要がある。

2001年1月 ブッシュ氏(共和党)が前代未聞の開票の混乱を経てゴア氏(民主党)を破り第43代アメリカ大統領に当選(1期目)。

2001年4月 靖国神社参拝を公約の一つに掲げて自民党総裁選に圧勝した、小泉純一郎新政権発足。

同年9月11日 その後の世界を変えたと言われるアメリカ同時多発テロ発生。

同年10月 アメリカがアフガニスタンのタリバン政権にビン・ラディン氏の引渡しを要求して空爆を開始。日本は海上自衛隊を派遣して支援。

この様な背景のもと、お二人は米英の不法を厳しく批判する。

「辺見―アフガンの話に戻せば、タリバン政権が崩壊して空爆が成功したといわれ、戦争に勝利したといわれ、暫定政権ができて、開放ムードのなかで次は復興だといわれている。そういうなかでのアメリカの、あるいは英国のあの非道な空爆は不問に付される。歴然たる戦争犯罪なのにそれが全く告発もされず、逆に必要な攻撃だったかのように正当化されている。また間接的に国際社会のなかで承認されてしまっている。それはだめです。絶対にだめです。

坂本―それがやりきれないんですよ、ぼくは。」

この視点から、当然ながら次の指摘がなされる。

「坂本―国内に過激派がいるというだけで、その国を爆撃していいのだったら、世界中を爆撃しなければなりませんね。もちろんアメリカを含めて。

辺見―ええ。仮に関与していても、ああした一方的な攻撃は、国際法上では正当性を持ちえないと思うんです。そのことをはっきりさせておかないと、ほんとに危ない。この方法がイラクや朝鮮半島で適用される可能性がきわめて強くなると思うんですよね。

坂本―同じことをやるでしょうね。これがおかしいということは、ぼくらみたいな素人でもわかるわけですよね。つまり必要な手続を踏んでいない。…(中略)… これでは法も論理も要らない、無視していいんだ、力のあるものは何をやってもいいんだということでしょう。だったら何でぼくが駐車違反で捕まらなきゃいけないんだ。法も論理もないんでしょう、この世界は。」

そして、周知のとおり「同じこと」が2003年3月、イラクに対してなされた。「大量破壊兵器」など全くの口実に過ぎなかったことも既に明らかになっている。

「坂本―世界中の法律家などは、全員辞職すべきですね。

辺見―日本の憲法学者などもそうですよ。ありもしないことをあるかのように論じている時代は、もう終わっていると思うんです。だから憲法をやめろというんじゃない。逆です。憲法を身体を張って実現すべきだと思うんです。

坂本―この世界の現実を直視しろということですね。

辺見―身体を張って九条を実現すべきだと思う。…ものすごい速い速度で、たとえば日本の野党、民主党などは完全に改憲政党になってきてるし、九条を大事に考える者にとってはきわめて怖い存在になりつつある。ぼくは、社民党の一部も条件闘争のなかで大枠は改憲勢力になっていくと予測しています。今後、憲法をめぐり、どこが主体になり、どう戦っていくのか、きっかけはどこにあるのか、まだわからない。」

私は、このお二人と危機感を共有する。お二人の発言全てに共鳴する訳ではないが、この様な発言者が少数派であり続けては絶対いけないと思う。是非、沢山の人に読んでいただきたい。


辺見庸×坂本龍一<br />読了平成17年5月30日
読了平成17年5月30日
平成17年4月30日発行
朝日文庫
520円+税