私は、高校までの科目としての数学は好きだった。大学の教養課程で自然科学の単位を揃えるための科目の一つに数学を選んだ。そのときは好きだという面もあったが、必ず単位をくれるという評判の森毅教授がご担当だったからである。森教授は最近よくテレビ等に出ておられるが、最初に私が受けた講義(今から30年以上前である)の開口一番は今でも覚えている。「初代の笑福亭ショカクは…」というもので受験勉強明けで田舎者の私はあっけに取られた。尤もその言葉から後の内容は全く思い出せないし、教授に申し訳ないが初回以降講義には出なかった。もちろん試験さえ受ければ単位はもらえて、確か出題は「我が内なる数学について論ぜよ」というようなものだった。何を書いたか覚えていない。
無駄話が長くなったが、この本は文系の私でも読める本で、難しい数式の話は全く出て来ない。
私は数学の中でも証明問題が大好きで、最後に「証明終わり」と書き上げたときの快感は得がたいものだったが、インドでは証明問題を徹底的に鍛えるという本書での話を読み、私の数学嗜好はかなりまともだったのだな、と少々嬉しかった。
ちなみにインドでは日本の九々に相当する掛け算の口承が二桁まであるのだそうである。この様な二桁九々と強靭な証明力とで、インドはコンピュータの分野などで目覚しい成果を上げているとのことである。
それに引き換え日本は…というのが著者の嘆きで、「ゆとり教育」などと言っている場合か、という批判は確かに納得できる。
副題に「『説明力』を鍛えるヒント」とあるが、どちらかというと「論理力」を鍛えるという感じに近い。ただ数学はそもそもが論理なので(本来は直感や美的感覚も必要なようだが)、当然だろう。
確かに頭の訓練になると思うが、それと同時に上記のインドの話など興味深い知見も多い。
2005年6月中旬読了