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2007.02.05(月)

それでもボクはやってない

監督・脚本 周防正行 主演 加瀬亮

痴漢冤罪事件の映画である。

よく調べてある。我々法律実務家からみて違和感はない(尤も一つだけ、ドラマの本筋とは関係ないからどうでも良いが、法廷での検察官席と被告人・弁護人席が福岡地裁での刑事裁判とは逆になっていた。東京地裁ではそうなのだろうか。それとも画面の上手・下手の設定上変えたのだろうか)。昔の日本の法廷ドラマでは、日本の裁判所であるにも関わらず裁判官が木槌で机を叩いたり「法廷侮辱罪で逮捕する」なんて言ったり有り得ない状況を平気で画面で流していた。この映画ではそれはない。

「99.9%の有罪率」とか「人質司法」とか現在の刑事裁判の問題点が浮き彫りにされる。多分、刑事裁判なんて今まで全く見たこともない方々(そういう方々が殆どだと思う)には目新しい情報が満載であろう。「えぇーっ、そんなことなのか、そんなことがあっていいのか」と、暗澹たる気分になるかも知れない。その意味で、啓蒙的・教育的映画という見方もできるし、裁判員制度を控えて国民必見の映画という言い方もできるだろう。

ただ、だからドラマとして面白いかと言えば、それは別次元の問題である。けれん味なく真正面から現実的に描いているので、この描写に感銘を受ければ、そういう意味の面白さはあるだろう。

なお、こんなことを言うと不遜で叱られそうだが、被告人役、弁護人役はある意味でやっぱり役者さんだなぁと感じたのだが、裁判官役のお二人の役者さん方は実にリアルに感じた。確かにこういうタイプの裁判官はいるよねぇという感じである。

私も司法修習生になって、初めて刑事裁判を傍聴したり判決起案の練習をさせられたりしたときは、司法試験の受験科目として刑法を勉強していた頃とは全く感覚が違うので、驚きの連続だった。しかし、この映画を観たときには、ある意味で現状に慣れきってしまい、それ程の驚きは感じなかった。そのこと自体が問題なのかも知れない。

なお、今回の映画評ではパンフは買わなかったので、写真はない。

(後注−2007.2.10記)

福岡地裁・高裁の1階ロビーで、大型の液晶画面か何かで裁判員制度の啓蒙映画(ビデオ?)を随時上映している。私は、その画面の前を通り過ぎる際に瞥見するだけで、注意して観ることはなかった。ところが、本日たまたま、その画面の前のソファに座って依頼者を待つことになったので、何気なく画面を観ていたところ、刑事裁判の法廷場面で、正面の裁判官席に向かって、右が検察官席、向かって左が被告人・弁護人席になっており、この映画と同じだった。だから多分東京地裁・高裁辺りは、福岡地裁・高裁とは反対の席の取り方をしているのだろう。画面上の上手・下手とは無関係の様だ。


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