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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス名古屋高裁「乱高下事故でJAL機長を無罪」

判例解説インデックス

2007.01.11(木)

名古屋高裁「乱高下事故でJAL機長を無罪」

機長に過失認めず

1月9日、97年6月の日航機乱高下事故により一人が死亡13人が怪我をした事件で、機長が業務上過失致死傷罪に問われ、名古屋高裁は一審名古屋地裁での機長に対する無罪判決を支持し検察側の控訴を棄却した(朝日新聞夕刊)。

新聞では判決文が読めないので正確なことは言えないが、争点は二つあったらしい。すなわち機長の操縦の落ち度(過失)の有無と、機体の乱高下(その結果としての死傷)と機長の操縦との因果関係である。今回は、「過失」というものについて若干詳しく解説したい。

業務上過失致死傷罪というのは、業務者に対して過失致死傷罪が重くなったものである。更に最近は交通事故の厳罰化の流れの中で、危険運転致死傷罪が制定されている。その基本は過失犯という犯罪の型で故意犯と対をなすが、本来の刑法は意図的に被害を発生させようとする故意犯のみを罰し過失犯は例外というのが建前である。しかし、社会の高度化複雑化に従いこの様に過失犯類型が拡大して来ている。

過失とは平たく言うと「落ち度」であり、「落ち度」がなければたとえ死傷結果が発生しても罪には問われない。

では過失の内容はどんなものか。小難しい言い方になるが、結果予見義務違反と結果回避義務違反である。つまり、その様な行為をすれば死傷結果が発生するだろうと予見(予想)すべきなのに予見しなかった、そして結果を予見して結果を回避すべきなのにしなかった、その場合に初めて罪に問われる。

そして、この場合一般人の能力を前提にする。つまり、一般人なら予見可能性がある場合(そんなことをすれば人に怪我をさせたり死なせたりするかも知れないのは普通の人なら誰でも予想できるだろうと言える場合)に予見義務が発生する。そして、一般人なら回避可能性がある場合(普通の人なら適切な予防行為に出て死傷結果などを防ぐことが出来ただろうと言える場合)に回避義務が発生する。「法は不可能を強いるものではない」という言い方もされる。

「業務上」過失致死傷罪というのは、「業務者」の結果予見義務・結果回避義務は、この程度が重いということになっている。ただ語感的に「業務者」というと「職業人」と受け取られかねないが、刑法上の「業務」とは職業だけに限られず、これも小難しい言い方になるが「危険行為を反復継続する一定の地位」ということになる。端的に車の運転を考えて頂けばよい。自家用車でドライブに行くときでも、事故を起こせばそれは単なる過失致死傷罪ではなく業務上過失致死傷罪である。職業として行った行為で致死傷の結果を引き起こせば勿論業務上過失致死傷罪である。

業務者の一般人の能力とは、その業務に従事する者の平均的な能力ということになっている。

過失犯で厄介なのは更に過失行為と結果との因果関係であるが、これは以前解説したと思うので今回は省略。

本件では、飛行機操縦者という業務者の過失の有無が問われ、過失はなかったとされたということである。車の運転とは違い、認定は大変だったろうと思う。