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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス東京高裁、番組改変につきNHKに賠償を命じる

判例解説インデックス

2007.02.01(木)

東京高裁、番組改変につきNHKに賠償を命じる

憲法上の番組編集権を逸脱

東京高裁は、平成19年1月29日、旧日本軍による性暴力をめぐるNHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKとその製作下請会社などに損害賠償を求めていた裁判で、NHKに200万円の賠償を命じる判決を言い渡した(朝日新聞朝刊)。

憲法21条は「集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と定めている。この中で、「報道の自由」が「一切の表現の自由」に含まれるのは明らかだろう。そして、この様な「報道の自由」が保障される以上、その前提や内容をなす「取材」「編集」「発表」も憲法上保障された自由と考えることが出来るし、そう考えなければならない。とりわけ民主主義国家では、国民の「知る権利」も憲法上の保障を受けるのであり、それに対応する「報道の自由」は国民に奉仕するものでもある。

尤も、本来憲法上の「自由」とは「国家や地方自治体の公権力からの自由」を意味し、国や自治体は憲法上の自由を侵害してはならないというのが憲法の命ずるところである。

だから以前一部で報道されたように、もし政府の要職にある政治家が番組内容の改変を迫りNHKがその圧力に屈したのであれば、国家権力による報道の自由に対する侵害であるから、直接的に憲法の適用の可否が問題となった事案だったのである。

ところが、本件では取材を受けた市民団体が報道する側を訴えた事案である。従って、憲法の直接適用が問題となる事案ではない。ただ、対国家との関係では、報道機関側と市民団体とは同列の市民ということになる筈であるが、報道の自由は市民団体側も尊重すべきであるという公序は成り立っていると考えられている。

では、市民団体側は無条件に報道の自由を尊重しなければならないかというと、市民団体側にも憲法上の自由がある。具体的には「自己決定権」と呼ばれ、憲法上は13条の「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」という「幸福追求権」の内容に含まれると解されている。

従って、この報道する側の「報道の自由」と取材される側の「自己決定権」のせめぎ合いで、どの辺りで線引きをするかが本件での争いの様相だったということができる。

そこで新聞報道によると

「番組制作者の編集の自由と、取材対象者の自己決定権の関係は、取材者と取材対象者の関係を全体的に考慮して、取材者の言動などにより取材対象者が期待を抱くのもやむ得ない特段の事情が認められるときは、編集の自由も一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼が法的に保護されるべきだ」と判示したという。更に

「放送番組製作者や取材者は、番組内容や変更などについて説明する旨の約束があるなど特段の事情があるときに限り、説明する法的義務を負う。」とも判示した。

このいずれの観点からも本件は「特段の事情」があったと認定された訳である。その内容については長くなり過ぎるので立ち入らない。

市民間の憲法上の自由の微妙なバランスをとった判決ということが出来るだろう。