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メディア評インデックス

2011.02.09(水)

最高裁の暗闘 少数意見が時代を切り開く

山口進 宮地ゆう

わが国の憲法の原則である三権分立の機関のうち、国会・内閣に比べ、裁判所内部とくに最高裁判所の情報は少ない。本書は、それを開示しようとして書かれたもので、大変参考になる(尤も「暗闘」という表題は権力闘争を連想させて本の内容にそぐわない気がするが)。

本書が着目するのは、最高裁判決の「少数意見」である。

最高裁には、最高裁裁判官15名全員が参加する大法廷と、5名づつが参加する3つの小法廷があるが、それぞれが判決を出す。すなわち大法廷判決と小法廷判決である。そして、それぞれの判決理由については、結論に至る「多数意見」と多数意見と結論は同じだが意見を付加する「補足意見」と結論に反対する「少数意見」がある。この少数意見が時を経て多数意見に転化する過程を追ったのが本書である。

この過程を追う際に、裁判官の個性が語られる。総理大臣や国会議長の名は上げられても、最高裁裁判官はもちろん最高裁長官の名を上げられる人は殆どいないだろう。それくらい裁判官の顔はもちろん個性は知られることが殆どない。その個性に本書は切り込むのである。

その切り込み方は「少数意見」の背景や多数意見への転化過程を追う中で行われるので、「個性」と言っても言わば公のもので、私的個人的嗜好等とは無縁である。

感想としては、「暗闘」というからダイナミックなものかと期待していたが、どちらかと言えば静かな変化しかし着実な変化が語られている。元々裁判自体が「静かな正義」と言われる位だから、ある意味で当然だろう。

法律家以外の人がスンナリ読めるかと言えば若干読みにくいかも知れない。しかし、三権の一翼の内情を知るという意味で読んで損はない内容である。


朝日新書
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