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福岡市弁護士甲能ホームメディア評インデックス資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

メディア評インデックス

2011.02.19(土)

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

中谷巌

著者は、一橋大学教授として、また歴代内閣の審議会委員の中心メンバーとして、手腕を振るって来た。ここ20年ばかりの日本政府の規制緩和策などを含む「新自由主義」の提唱者として影響力を行使して来たのであるが、ここに来て本書を「懺悔の書」として上梓するに至った。いわゆる「新自由主義」の害悪が目に余るようになり、それを推進してきた自分にも責任があるというのだ。

著者のいうグローバル資本主義は、国境を越えて世界中で利潤追求一辺倒に走る資本の活動をいう、と定義して間違いはないだろう。そして、そこで現れる資本の害悪は、大きく分けて三つ。すなわち、世界金融経済の大きな不安定要素となる、格差を拡大し社会の二極化をもたらす、地球環境汚染を加速する。

著者は基本的に近代経済学者であって、グローバル資本主義がこの様な害悪をもたらすからと言って、マルクスに帰れ等とは言わない。グローバル資本主義の行き方を是正する方向で再生への道を色々と提言する。そして、その中で日本という国の成り立ちの特殊性を強調する。すなわち、例えば先進7カ国の中で、キリスト教という一神教の国でなく神道と仏教が融合して自然と人間の共生を目指すのは日本だけだというのである。自然を収奪の対象と見ないで共生が目指せる日本こそが環境問題の先進国になれるという。

その他、日本の特性を説く部分は色々と面白いが、世界、特に日本が危機的状況にあるという認識に貫かれていて、その部分には戦慄させられる。確かに日本は今のままで良いのかと思わされるのであるが、それにつけても日本政治の状況には暗澹とさせられる。


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