何年かぶりのSFである。
西暦2000年代の前半、人類は月面に基地を建設し、月面探索中に宇宙服を纏った死体を発見する。その死体を検査してわかったことはその人間は間違いなく人類でありながら、死後5万年経っているということだった。しかし、5万年前に地球人類が月面探査能力を有するくらいに発達した文明が栄えていたという地球上の証拠はない。この謎を解くのが本書のテーマになる。
本書は、特にストーリーというものが展開されるわけではなく、謎が謎を生み、それを解き明かしていく過程、そこで展開される科学論が中心となる。だから人物は、その科学論の語り部として登場するので、彼らの心理や行動が波乱万丈のストーリーを生み出す訳ではない。その意味で、宇宙人との大戦争などを期待すると大きく外れる。
しかし、発想は太陽系前史にまで広がり、木星まで巻き込んだ科学論となるので、スケールは大きい。アンドロメダ星雲を巻き込むようなスケールではないが、謎解きのスケールがチマチマしたミステリーの犯人解明等とは次元が違うので、その謎が明かされたときの驚きはちょっとしたものである。
今、地球の周りを宇宙ステーションが航行し、ときおりスペースシャトルが行き来している。やがて本当に月に基地を設ける日が来るかもしれない。そういう想像力を忘れないでいたいものである。