茶道の泰斗の千利休と豊臣秀吉の確執は有名な話である。本書は、利休の割腹の謎に迫った時代小説である。
構成が凝っている。冒頭、利休の割腹に面した場面から始まるのだが、叙述は、その日から段々日を遡る形で進められる。すなわち、割腹の前日が次章、割腹の前々日がその次の章という形で時を順次遡り利休19歳のときまで行き着く。そして、章毎に主題の人物が異なる。
推理小説に倒叙法という形式があって、最初に犯人が明かされ、捜査側が犯人に行き着くまでを楽しませるという叙述形式だが、本書は推理小説ではないにせよ、それと同じように割腹という事実を先に出して遡って行くのだが、その謎解きはやはり最期の章で割腹の真相があきらかになるという本当に凝った構成である。なぜ利休が関白秀吉に命乞いもせずに唯々諾々と割腹に応じたかが、時間を遡って読み進めるにつれ段々と腹に落ちて来て、最終章でその謎が腑に落ちる。
章毎に語られる人物像も立体的で深い。当然、利休以外では秀吉像が最も深い。両者の確執がさもありなんという形で納得できる。
私は、時代小説は余り読まないのだが、本書は第140回直木賞受賞作ということで何気なく読み始めたが、収穫だった。