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メディア評インデックス

2010.12.03(金)

イスラエル ユダヤパワーの源泉

三井美奈

中東問題は世界の難問である。第2次大戦後のイスラエル建国から、イスラエルと中東首脳が戦争と交渉を繰り返しアメリカ等の仲介を経ても未だに決着をみていない。私自身、どういう視点で考えたら良いのかよくわからずにいる。

本書は、その一方当事者であるイスラエルに関する書物である。人口750万人の国が周りを敵国に囲まれながら、なお強固に存在し続けている謎を解き明かそうとするものであるが、正直なところ、やはり新書の域を免れていないという気がする。中東問題の全容を理解し解決の道筋が霧が晴れたように見通せるという訳には行かないのである。事の性質上また新書の分量程度ではやむを得ないだろう。

一読して感じるのは、やはり強固なアメリカとの関係であろう。しかも、イスラエルはアメリカから恩恵を受けるが、アメリカはイスラエルから恩恵を受けている訳ではない。互恵ではなく片面的なのである。そのアメリカ内部でのイスラエル支援のロビーに多くのページが割かれており、その金額の巨大さに比してイスラエル人そのものの人数の少なさに驚く。ここで活躍するのは、イスラエル国籍を持つイスラエル人ではなく、いわゆるユダヤ人である。アメリカ国内でのユダヤ人は人口に比して巨大な影響力を有する。それはユダヤ人の優秀さがまず挙げられるだろうが、その外にユダヤ人の閨閥その他のグループや同調者の多さと人材の豊富さである。

先に書いたとおり、本書を読み終えてもイスラエル問題の展望は見えて来ない。イスラエルを敵視し殲滅まで叫ぶ中東の国々にとりまかれながら、いわゆるハリネズミ国家として存続していくイスラエルの将来はとても安泰とは思えない。石油を握る中東と仲良くせざるを得ない日本が仲介の労をとるのは難しいだろう。

しかし、このまま泥沼化させておくには行かない世界の課題である。


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