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2006.07.20(木)

偽証罪で有罪判決

業務上過失傷害罪の裁判で虚偽の証言

福岡地裁は、7月19日、交通事故に対する業務上過失傷害罪の公判で、証人に立った際、偽証をしたとされる被告人に執行猶予付きの有罪判決を下した。内容は、被告人のバイクとトラックの衝突事故が起き、そのトラック運転手が業務上過失傷害罪に問われた際、被告人が証言に立ち、その際、自己に有利な虚偽の証言をした、とのことである。

「偽証」は半ば日常用語化しているが、刑法上犯罪とされるのは、法廷に証人として出頭し宣誓の上、虚偽の証言をした場合に犯罪となる。

この場合、証人ではなく起訴された被告人の場合は、嘘をついても偽証罪にはならない。被告人の場合は、嘘をつかないことについて「期待可能性」がないと考えられている。この「期待可能性」とは正確には「適法行為の期待可能性」と言われ、法を守って違法行為を犯さないことが一般に期待できるかできないかという考え方で事態をみたときに、期待可能性が一般にない場合は犯罪とはしない、というものである。この期待可能性が犯罪として制定する場面で考えられるときは、そもそも被告人は偽証罪の主体から外すということになるし、制定された犯罪を前提としてその犯罪を当て嵌める場合にその事件では期待可能性がない事態と考えられたときは無罪、期待可能性が少ないと考えられたときは刑が軽い、という使われ方をする。

では、被告人が嘘をつくように証人をそそのかした、という場合はどうか。この場合は益々期待可能性がないから無罪だという説もあるが、人を偽証罪という犯罪に巻き込むことまで期待可能性がないとは言えないとして偽証罪の教唆犯になると考えられている。

また偽証罪は法廷での嘘に限られ、例えば起訴される前の捜査段階で警察に虚偽の事実を告げた場合でも偽証罪にはならない。ただ、虚偽の事実の告げ方によっては、証拠を隠したりすることになって証拠隠滅罪になったり、真相を隠して犯人の逃走を容易にしたりして犯人蔵匿罪になったりすることはある。また、犯人でもない人に処罰を受けさせようと嘘の事実で告訴したりした場合は、虚偽告訴罪という犯罪になることもある。それぞれ偽証罪とは局面が違うのである。

なお、偽証罪の「虚偽」とは自分の記憶に反することであって、客観的事実に反することではないと解されている。例えば、「自分の記憶とは違うが、真相はこうに違いない」と主観的に信じて証言しても、本来は偽証罪に該当する。