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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス最高裁が行政訴訟の原告適格拡大

判例解説インデックス

2005.12.09(金)

最高裁が行政訴訟の原告適格拡大

間口が広がった

2005年12月7日、最高裁大法廷は、小田急線連続立体交差事業認可処分取消、事業認可処分取消訴訟で、「都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち事業が実施されることにより騒音、振動等による健康または生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、同事業の認可取消を求める訴訟の原告適格を有する」との判断を示し、この基準からは原告適格は地権者に限られないとして、それまでの判例を変更した。

「原告適格」を拡大したと報じられているが、「原告適格」とは「原告」となれる「適切」な「資格」、もっと平たく言うと「原告」=訴え出る者になれる資格という位の意味と理解して頂けば良い。或いは別の言い方をするなら、「裁判をする権利」ないし「裁判所に判断をさせる権利」が認められる資格と言っても良い。これが認められないと、いわゆる「門前払い判決」の却下判決となる。つまり、もの凄く乱暴な言い方をすると、違法な行政処分を取り消せと裁判所に訴え出ても、違法で取り消せるかかどうかはお前さんに答える必要はない、お前さんにはその資格がない、と裁判所が言うことになるのである。

何故この様な「原告適格」なる考え方が必要なのかは、裁判所の役割をどう考えるかと密接にからむ。

違法・不当な行政処分で不利益を受けている被害者が、それを是正しようとする場合、幾つか方法が考えられる。まず端的にその行政主体(国の省庁や地方自治体)の担当窓口に抗議・苦情の申立や陳情をすることが真っ先に考えられるし、或いは議会(国会や自治体の議会)の議員に働きかけて行政にチェックを入れて貰う方法もあるし、また住民運動・市民運動さらには政治運動を組織して世論を喚起して行政や議会に圧力をかける、という方法もある。裁判所に訴え出るというのは、それらの方法と並ぶ一つの方法ということになる。

そして、当事者の範囲という目でこれらの方法を見ると、例えば政治運動が端的な例だが、その場合は被害住民と何の関係がない者も義侠心や同情心にかられて被害住民の運動に参加することが可能であるのに対し、裁判所は歴史的に具体的な紛争に法を適用して問題を解決するという役割を担わされてきたので、訴え出る者は紛争当事者に限られる、と基本的に考えられて来たのである。この、訴え出る者の範囲を画するのが「原告適格」という考え方なのである。

従来は、この「原告適格」をかなり狭く考えて来ていた。ところが、裁判所の機能・権限を拡充しようという基本的な考え方のもとに、裁判所による行政権のチェックが実効的になされるよう、行政事件訴訟法が改正され今年の4月から施行されている。

その目玉の一つが、原告適格の条文の改正であった。具体的には行政事件訴訟法9条で原告適格を「処分または採決の取り消し求める法律上の利益がある者」とされていた従来の規定に更に第2項を加え、「法律上の利益」をどう解釈すべきかについて「法令の規定の文言」だけでなく「根拠法令と目的を共通にする法令の趣旨や侵害されることになる利益を考慮すべきだ」と言った趣旨の条文となっている。

今回の判決は、この改正の流れに沿った判例変更ということになる。

行政法の勉強をして行政訴訟をやろうとすると、この原告適格は頭を悩ませる難問の一つなのだが、今回の判例変更で少しはやり易くなったかなと思っている。