抜群のノンフィクション(大宅荘一賞受賞とのこと)。前著「ドキュメント戦争広告代理店」(講談社文庫−講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、本書評欄2006年3月3日)も極めて面白かったが、本書も言わば歴史小説を読むような思いで読み進めていける。そして、現代史の、というよりつい何年か前までの直近現代史の内容を理解でき、現在のパキスタン情勢を読み解く鍵を手に入れることにもなるのである。
9・11に対する報復攻撃としてのアメリカによるアフガン爆撃とビンラディン引渡し要求の経緯は、マスコミ報道の中で、その背景が良くわからなかった。そもそも、タリバンとアルカイダ、その中でのビンラディンの位置づけすらも私には明確ではなかった。要するに、アメリカ本土への直接攻撃に成功したのがアフガニスタン政府タリバンの中心人物にしてアルカイダの中心人物ビンラディンなのだ、程度の認識だったのである。
ところが、アフガニスタン政府とタリバンとは同義ではない。更にタリバンとアルカイダは由来からすると全く別組織である。また更にビンラディンはサウジアラビアという国の大富豪出身で、アフガニスタンという国に属するどの部族とも関係ない。しかし、ビンラディンはアフガニスタンで最終的には実権を握ることになる。どうしてなのか。その辺りを克明に取材して著したのが本書である。
実に分りやすいし、いわゆるテロの危険は9・11から5年経ったからといって消滅した訳ではないのだ。もっと言えば、日本政府のアメリカ一辺倒が極めて危険であることが戦慄する思いで実感できる。アメリカは西欧社会はアフガニスタンで何をしたのか、ソ連が撤退した後アフガニスタンの国民が旱魃で喘いでいるときに手を差し伸べようとせず、文化財であるバーミヤンの大仏がタリバンにより破壊されようとした途端に突然文化財保護を声高にわめき出す。アフガニスタン人が怒り出すのも尤もである。
キリスト教文化圏でもないイスラム教文化圏でもない、しかも世界有数の大国という位置づけからすれば、日本という国は、もっともっと指導力を発揮できるのではないか、ブッシュのポチなんて国辱的な態度はやがて日本に跳ね返ってくるだろう(ちなみにイギリスのブレア元首相はブッシュのプードルと呼ばれていた)。