久しぶりに横山氏を採り上げる。
今回は、L県警の検死官(警察内の呼び方は調査官)を主人公にした連作短編である。
検視官といえば、パトリシア・コーンウェルのドクター・スカーペッタのシリーズが有名だが、当然ながら本書の主人公である捜査一課の調査官、倉石義男は全く趣が違う。
また、横山氏の警察小説シリーズは、どちらかと言えば組織の中での出世争い手柄争いで男同士の功名心や嫉妬心に呻吟するヒリヒリする様な苦悩を抱いている人間が主人公のことが多い。しかし、今回の主人公は、出世など全く度外視して組織内のアウトロー的な生き方をする。痛快といえばいえるが、以前の横山カラーの組織小説も未だ捨て難く、いずれ戻ってくるものとファンとしては確信している。
それぞれの短編で、様々な人間模様が語られる。被害者・加害者・捜査官それぞれの立場の心情が語られ、それは言わば横山節といってよい。これに惚れるか惚れないかは、やはり人の好みだろう。
本書では、最後の「十七年蝉」という短編に感心した。17年ごとの犯罪に目を付ける主人公と、それを理解できない周囲、という横山氏ならではの構成である。
その他の短編も秀作だと思う。堪能した。
ちなみに、本書で、司法修習生が検察修習で司法解剖に立ち会う事実が重要なファクターを占める短編がある(「声」)。確かに私も修習時代に司法解剖に立ち会った。中年女性の死体だったが、腹を割って内臓の説明を受ける辺りまで、殆ど貧血を起こしそうだった。しかし、解剖医がツーッと死体の頭の皮を剥ぎ頭蓋骨のまわりにノコギリで切り目をいれ、その切り目にノミを立ててハンマーで叩くと、パカッと頭蓋骨が割れて脳みそが剥き出しになった辺りから殆ど即物的な感情しか湧かなくなった。今でも刑事事件で死体の写真を見ることはあって、気持ちよくは無いが、ある程度の免疫はある。そういう私ではあるが、警察の不祥事が色々あるにしても大変な職業だと感心せざるを得ない。