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2007.05.12(土)

映画をたずねて 井上ひさし対談集

井上ひさしv.s.渥美清/小沢昭一/黒澤明 他

対談のお相手が錚々たるメンバーである。渥美清・小沢昭一・黒澤明・澤島忠・関敬六・高峰秀子・本田猪四郎・山田洋次・和田誠の諸氏だが、本書で始めて知った方もいる。

映画の裏話も楽しいが、やはり監督の目、俳優の目というのは私の様な只の観客とは違うなぁと感心する会話が多い。例えば黒澤監督、山田洋次監督、井上氏の「七人の侍」に関する対談の一節…

山田 だけど七人のうち四人が死ぬわけですが、みんな鉄砲で撃たれていますね。やはり斬られて死ぬというお考えは出てこなかったですか。

黒澤 野武士との斬りあいで殺させたくはなかったね。嫌でしたよ。パーンと撃たれて死んだほうが潔くてね。

井上 見てるほうも納得できますものね。いまでは常識なんでしょうけど、当時のぼくらがびっくりしたのは、倒れてからパンと音が聞こえるでしょう。つまり弾のほうが速いわけですね。

黒澤 ヴェニスの映画祭なんかでも、音のほうが遅れているのはおかしいといわれたけど、そうじゃない、ぼくはわざとやったんです。あの距離から撃ったら音のほうが少し遅れて聞こえる感じですよね。

山田 とくに宮口さんが撃たれるときは、身体が先にグラッと傾いてスローモーションで倒れる。で、すぐあとから音が追いかけてくる感じですね。

この本で初めてお名前を知った監督もいらっしゃるが、流石にそれぞれ一家言お持ちで感心する。

本書には対談の他に、一篇だけ渥美清さんに対する追悼文が載せてある。泣かせる文章である。その中にあったのだが、私は渥美さんは浅草のストリップ劇場でコントをやっていて売り出したと聞いており、何か小さく隠微なストリップ劇場から這い上がってきた叩き上げというイメージでいたが、実はそのストリップ劇場の浅草フランス座は「客席数にしても三、四百席あり、手本はブロードウエイのショウか、パリのフォーリー・ベルジュエールのショウで、それに日本風の味付けをしたもの」だったそうで、ストリップ界の東京大学と言われていたのだそうである。なるほどと思ってしまった。

知らない監督や映画が出て来るが、それでも中々面白い。


井上ひさしv.s.渥美清/小沢昭一/黒澤明 他<br />ちくま文庫
ちくま文庫
780円+税