工業デザイナーの著者が、工業デザインについて概説したもの。
人は何を美しいと感じるかという法則の様なものを、例えば黄金比などから説き起こす。
黄金比は辺の比が1:1.618で、例えばトランプの縦横の辺の比で、西洋ではもっとも美しい形とされている。この程度のことは私の知識にもあったが、白銀比というのもあるそうである。これは1:√2の比で、用紙サイズのA判・B判に使われていて、よくA4判とかB5判とかいっているものである。この白銀比も日本人は美しいと感じてよく使うそうだが、面白いことに、かわいいキャラクター(例えばハローキティやアンパンマン)も、この白銀比の長方形にピタリと収まるのだそうである。
日常使う家電製品などが、どの様なコンセプトでデザインされるのかがよくわかる。なるほど、こういうことだったのかという感じである。
この工業デザインに要求される美しさ以外のもう一つの重要な要素、使いやすさについては、その生い立ちが戦争にある、ということも説明される。人間にとっての使いやすさを追求する人間工学は、アメリカ空軍が第2次大戦中のパイロット不足を切っ掛けに発祥したのだそうである。例えば計器類の見易さがその中で研究され、それが現在の車にも応用されているという。最近では使い古された言い回しの「人にやさしい」機器が「人に残酷な」戦争から生まれたというのも皮肉といえば皮肉だが。
通勤経路に携帯電話の店があるが、よくもまぁこれだけの種類のデザインがあるものだと思う。機能を削ぎ落として見た目を度外視すれば実に簡単な形状に出来る筈だと思うのだが、やはり消費者はそれだけでは満足できないのだろう。本書で、その背景も理解できるようになった気がする。