オランダ映画である。ヨーロッパ映画と言えば、フランス映画・イタリア映画・ドイツ映画・イギリス映画で、それぞれすぐには代表作は思い出さないにしても、何かは観ている筈である。しかし、オランダ映画というのは全く記憶がない。
ただ、言葉は勿論わからないにしても映画としては完全なハリウッド映画である。オランダ人のバーホーベン監督は「氷の微笑」「ショーガール」「インビジブル」等をハリウッドで作った方だそうである。
第2次大戦後に建国されたイスラエルから映画は始まる。ユダヤ人である主人公ラヘルが第2次大戦中のハーグでの生活を回想する。戦争前に歌手だったラヘルが、レジスタンスの一員として、その美貌を生かしてナチスの将校にとりいる。
派手なアクションシーン、エロチックな場面、二転三転するストーリー、娯楽作品としても十分楽しめるのだが、扱う題材は、ナチスに対する抵抗運動(レジスタンス)とユダヤ人差別であり、それ自体は大変重い題材である。ナチズムに抵抗するレジスタンスの内部においてさえユダヤ人差別があることが語られる。史実に基づくとされているが、どこまでが史実なのかはよくわからない。英雄的に語られることの多いレジスタンスだが、この様な暗部もあったのだろうか。
ユダヤ人に対する差別と虐殺は人類史の汚点であり、許すべからざる犯罪である。ただ、パレスチナ人の故サイードの著作を読んだ私としては、ユダヤ人に対する民族差別とは別次元で「国家としてのイスラエル」を今のところ無条件には支持する訳には行かない。
主人公ラヘルを演じるカリス・ファン・ハウテンは、大変綺麗で、惜しげもなく裸身を晒し更には汚物にまみれるシーンまであり、いわゆる「体当たり」の演技で、オランダ映画祭主演女優賞を受賞されたそうである。受賞3度目とのことなので、綺麗なだけでなく実力派でもあるのだろう。確かに、この映画を観れば納得する。
余談だが、この映画は福岡市では「シネテリエ天神」という小さな映画館で上映されている。福岡市に20年住んでいる私だが、初めて行った。地下にあって、日ごろはどちらかと言えばマニアックなカルトムービー等を専門に上映しているようである。この映画のハリウッド的カラーとは少し場違いな感じがした。