広島地裁は、10月2日、山口県光市母子殺人事件の弁護団弁護士を弁護士会が懲戒すべきだとする懲戒請求を弁護士会にするようテレビで発言した橋本弁護士の行為が、名誉毀損・業務妨害にあたるとして損害賠償を求めた弁護団弁護士の請求を認めた(10月2日、朝日夕刊)。
弁護士の仕事は場合によっては国家権力と対決しなければならない場合があるため、その職務を全うするには権力から独立した弁護士自治という原則が認められている。もちろん法に触れる行為を弁護士がすれば、それはそれで法律の規定した罰則の適用を一般国民と同じ様に平等に受けるが、対決する行政等からの不当な圧力を排するため、弁護士の懲戒は弁護士会自身がすることになっており、それが弁護士自治の原則である。
この弁護士会の懲戒は、誰でも弁護士会に求めることが出来ることになっている。それが、今回の事件の背景である。
新聞報道によれば、光市母子殺人事件の弁護団の方針変更に批判的だった橋本弁護士が、テレビで弁護団弁護士を懲戒請求するよう視聴者に呼びかける様な形になったため、懲戒請求が弁護士会に殺到し、その応対に追われた弁護団弁護士が、橋本氏の発言が名誉毀損と業務妨害にあたるとして、損害賠償を求めたものである。
広島地裁は弁護団弁護士の請求を認め、橋本弁護士の行為が社会的相当性を逸脱していると認定した。橋本氏の「弁護団の主張が創作であり、懲戒に相当する」というのが根拠が無く名誉毀損にあたるとし、懲戒請求呼びかけにより弁護人の弁護士活動が妨害されたとも認定して、損害賠償を認めた。
新聞報道だけなので、詳細はわかりにくい面があるが、刑事事件の弁護活動はマスコミ報道などと対立する場合が少なくなく、それで一々懲戒請求されれば弁護士活動が阻害されるであろうことは、同じ弁護士として容易に想像がつく。結論的には妥当な判決というべきだろう。