いわゆる名張毒ブドウ酒事件について、名古屋高裁(刑事2部)は、12月26日、同じ名古屋高裁(刑事1部)が昨年4月になした再審開始決定を取り消した(朝日新聞夕刊)。
この決定内容が妥当なのか疑問があるが、今回は「再審」という手続が一般の方々にはわかりにくいかと思うので、内容よりは手続の仕組について若干の解説をする。
日本の裁判制度は、民事・刑事を含め原則として三審制をとっている。すなわち、地方裁判所の一審、高等裁判所の二審、最高裁判所の三審という三段階である(厳密にいうと幾つかの例外があるが、これが原則)。従って、最初の一審判決に事実誤認などがあるとして不服があるときは二審で審理して欲しいと不服申立が出来、二審判決に不服があるときは(不服が言える理由は法律で絞られているが)三審で審理して欲しいと不服申立が出来るが、三審まで行なって出た裁判所の判断は、原則として最早不服申立の手段はないことになっており、三審制での不服申立手段が尽きて判決が取り消せない状態になることを判決の確定、その判決を確定判決という。何時までも不服申立が繰り返せるのであれば、何時までたっても裁判所の判断が確定しないからである。これを法的安定性の要請という。
しかし、特に刑事裁判で有罪判決が確定してしまっても、その後に実は無罪であることが証明できれば、確定判決をそのまま維持することは有罪判決を受けた被告人にとっては著しい人権侵害であることは当然であるし、法的安定性とはいっても不正義の法の安定を求めることは法の理想からも離れる。
そこで、この様な場合に「非常救済手続」として、法例違反については「非常上告」、事実誤認については「再審」の制度が設けられている。
この「再審」について一般の方々にわかりにくいのは、制度として「再審請求手続」と「再審公判手続」の二段階手続になっていることだろう。この制度では、再審請求が認められて初めて再審公判が行なわれることになっている。そして、一旦再審請求が認められると、事実上ほぼ確実に再審公判で確定判決が取り消されることになっているのである。つまり、本来は入り口である筈の「再審請求手続」の内容が、本体である筈の「再審公判」を先取りする形になっている。
また、再審請求が却下・棄却されて確定した場合には同一の理由による再審請求は法律上認められないが、別の理由による再審請求は妨げられない。
再審請求が認められる理由は、刑事訴訟法435条が、かなり細かく規定している。長くなるので引用しないが、例えば同条1号は「原判決の証拠となった証拠書類又は証拠物が確定判決により偽造又は変造であったことが証明されたとき」としている。
そして、実務上最も利用され且つ最も問題が多いのは同条6号「有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言渡(…中略…すべき)明らかな証拠をあらたに発見したとき」である。これを証拠の「新規性」と「明白性」と呼んでいる。
今回の名張毒ブドウ酒事件でも、この「新規性」「明白性」が問題となり、同じ名古屋高裁でありながら評価が分かれる結果となった。疑問が多いがとりあえず本欄の解説は、ここまでとする。