東京都葛飾区のオートロックではないマンションに政党ビラをまくために立ち入ったとして、住居侵入罪に問われた被告人に、8月28日、東京地裁は無罪を言い渡した(8月28日、朝日夕刊)。
住居侵入罪は、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物…に侵入し…た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」(刑法130条)とされる犯罪である。
本件では「正当な理由あり」とされたのだという。すなわち「どんなときに立ち入りが許されるかは、社会通念を基準に、立ち入りの目的・態様に照らし、法秩序全体の見地からみて社会通念上、許される行為といえるか否かで判断するほかない」という判断の枠組みを示し、(1)立ち入り滞在時間はせいぜい7、8分だったこと(2)このマンションではピザのチラシも投函されているが業者が逮捕されたという報道もないこと(3)被告人は40年以上政治ビラを投函しているが今まで咎められたことはないこと(4)マンションの張り紙では「明確な立ち入り禁止に意思表示がなされていない」こと、等を理由としたということである。
同種の事件で、防衛庁官舎での戦争反対ビラ配布につき、東京地裁無罪、東京高裁逆転有罪、現在上告中の事件があるという。
近時、この同種事件をはじめ、公衆便所の反戦落書きを器物損壊罪とし、卒業式の君が代斉唱反対を威力業務妨害罪に該当するとした判決など、犯罪にかこつけた思想弾圧ではないかと疑われかねない裁判が目につく。もっと言えば、その様な事件を立件し起訴する警察・検察の姿勢そのものが問われるし、裁判所がその尻馬に乗って形式論理で有罪にするのであれば、憲法上の思想・表現の自由(そこに含まれる政治活動の自由)は圧殺されてしまう。その意味で今回の東京地裁の判決は評価できる。