判例解説を目論んでみたけれど、これは私の予想以上に大変。新聞(特に夕刊)には様々な判決結果が報じられ一般の方々には興味があるだろうな解説したら親切だろうな、と一応思うのだけれど、これを一般の方々が容易に理解できるよう説明するのは実はとても大変なのである。しかも私も一応弁護士という肩書きで生活している以上めったなことは書けない。こいつ本当に法律家か?とに思われる文章は、自分の首を絞めるだけで書ける訳がない。
しかし、ホームページ更新に趣味的な部分だけ熱心で、判例解説欄だけ放置していると思われても申し訳ないので、新しい見聞を書きたいと思う。皆様も裁判員になったときの基礎知識で役に立つかも知れない…。
刑法の口語化が随分以前に行われたが、最近の改正で強盗致死傷罪の刑の最下限が7年から6年に改正された(正確に言うと死亡結果まで発生したときは「死刑又は無期」で変わらない)。実は、我々弁護士からすると刑の最下限が7年か6年かは雲泥の差がある。裁判官は刑の量定の匙加減(略して「量刑」という)を任されているが、それでも当然法律の枠はある。そして、執行猶予を付けられるのは3年以内の懲役刑の言い渡しが出来る場合に限ると法律で決められているのであり、当然この決まりを無視は出来なかった。刑を裁量で減刑する場合は法律で定めた刑の最下限の半分にできるが、7年だと半分でも3年6月で執行猶予が付けられない。しかし、6年なら情状により減刑(「酌量減刑」と呼ぶ)で、3年に半減させて、それなら執行猶予が付けられるのである。
強盗致死傷なんて凶悪犯罪に執行猶予を付ける必要なんてない筈だ!け、け、怪しからん!!とお怒りの方、お気持ちご尤だが「事後強盗」という犯罪をご紹介しておく。例えば会社のリストラに遭って無職・無収入の身の上、子供のミルクを買う金にさえ事欠いて、ついコンビニでミルクを万引きしてしまった(ここまでなら窃盗で強盗ではない)、ところが店員に見つかって逃げて、追いかけてきた店員がミルクを奪い返そうとしたので、それ防ごうとして店員を思わず殴ってしまった、という事案は殴り方次第では「事後強盗罪」となり、且つ殴られた店員が少しでも怪我をすれば「強盗致傷罪」となって最低3年半は服役しなければならないというのが、旧法だったのである。こういうとき、良心的な裁判官は、「事後強盗罪」ではなくて「窃盗罪」と「傷害罪」に分解して何とか執行猶予にするという芸当をしていた。無理があるなぁと思いながら、とりあえずは弁護士も(そして情のある検察官も上級審の裁判官も)納得していたものである。
今後は、そういう心配を今後はしなくて済むというメリットがあるので、まずは「良かった、良かった」と言うところか。