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2010.12.24(金)

沈底魚

曽根圭介

久しぶりのスパイミステリーである。第53回江戸川乱歩賞受賞作だそうである。

「沈底魚」とは中国語のスパイ用語で、スパイミステリーで「スリーパー」と呼ばれるタイプである。長く敵国で一般市民として生活して社会に溶け込み、やがて動き出すというスパイ活動のやり方で、沈潜期間を「スリープ」と呼ぶ訳である。

日本に、中国の沈底魚がいる、それも現職の国会議員だという情報がもたらされる。そこで警視庁外事課(公安担当)に捜査本部が設置され、誰がその沈底魚か、捜査にあたる。スパイ小説ではあるのだが、スパイ活動が描かれるのではなくて、公安警察のスパイ炙り出しの過程が描かれる。その意味では、警察小説的な色合いもある。警察小説お定まりの派閥抗争やキャリア・ノンキャリアの対立も含まれ、その意味では味付けは二重三重であり、それぞれの面で楽しめる。

また一匹狼の主人公の性格付けも中々魅力的である。

筋を明かすわけには行かないが、スパイに行き着く過程の虚々実々のドラマが秀逸である。スパイ小説に擦れた読者かも知れない私をも飽きさせない。一級のエンターテイメントである。


講談社文庫
629円+税