甲能法律事務所甲能法律事務所
検索

メディア評インデックス

2010.09.21(火)

容疑者Xの献身

東野圭吾

2006年の直木賞受賞作である。その他、各種のベストテンでも1位を取得したそうである。

いわゆる倒叙もので、犯人は最初からわかっている。当然、犯行側は自分たちの犯行を隠そうとし、捜査側はその偽装を暴こうとする訳だが、本書の特色は捜査側が警視庁刑事だけではなくて、その刑事の大学の同級生で湯川という学者が加わる。この一風変わった学者が犯行の解明に関わるのだが、謎解きの面白さだけでは直木賞は貰えないので、この登場人物らの人物描写が面白い。草薙という刑事はやや類型的といえなくもないが、石神という天才数学者にして不遇な高校教師をしているという人物の描写が秀逸である。学者という人種はさもありなん、という風に微細に描かれている。

ミステリーなので結末はもちろん明かせないが、苦い結末である。犯人の苦悩が伝わって来る。

一読の価値ありといえる。


文春文庫
629円+税