イタリアの歴史を専門に書いておられる塩野氏の時事評論である。もう長くイタリア在住でいらっしゃるらしいが、その中で日本での出版のために年に何回か帰国されるそうだが、本書の対象は殆ど日本それも日本の時々の政治である。
私は未読だが15年かけてローマ帝国の盛衰を追った15巻のローマ史を完成させた方だから、そこここにローマの政治家・英雄や政治と日本の政治・政治家との対比が出て来る。その見方は、かなり辛口で、特に在外生活が長いからか外交面での問題の立て方が多い。そして、日本外交が如何に下手ないし奥手かを嘆く場面が殆どである。辛口の苦言が多く、それもこれも日本を憂えての思いからだということがよくわかる。
日本が国連非常任理事国であることで、常任理事国入りを目指す外交姿勢に既存の常任理事国(特に中国)の反対を見越して悲観的意見を述べておられるが、それには説得力がある。その他、パレスティーナ問題も全く楽観しておられない。それらの見方は極めてシビアである。それも数世紀に及ぶローマの勃興と滅亡を追って来られた深い学識に裏打ちされているから説得力に富む。
日本の時々の問題にも言及され、どちらかと言えば保守本流という感じで、必ずしも私と立場は一致しないことが多いが、ご意見自体は示唆に富む。日本の政治を真面目に考えようとする人々の参考には十分なるだろう。
時折、肩の力を抜いた日本酒の話などもあって、それはそれで楽しい。
塩野ファンの方も多くおられるのだろうと想像するが、特に塩野ファンでなくても読んで損はない2冊である。