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福岡市弁護士甲能ホームメディア評インデックス時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層

メディア評インデックス

2010.07.15(木)

時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層

竹内明

1995年3月30日、当時の警察庁長官国松孝次氏が何者かに狙撃され、瀕死の重傷を負った。そして、2010年3月30日、この狙撃事件は犯人特定に至らず公訴時効を迎え、犯人と目される人物は遂に訴追されることなく、捜査は終焉に至った。にも拘わらず、警視長公安部は、時効の翌日、「警察庁長官狙撃事件の捜査結果概要」なる文書をウェブサイトに掲載し、事件がオウム真理教が起こした疑いが極めて濃いと異例の発表をした。刑事責任が問えない状況であるのに、である。

本書は、この狙撃事件の捜査を丹念に跡付けることで、捜査の迷走を炙り出したドキュメントである。

本書を読む限り、本件事件の捜査の弱みは、複雑に絡み合った組織の対立構造から来るものの様である。すなわち、本件事件のために設けられた警視庁内の特別捜査本部内において公安部出身の捜査官と刑事部出身の捜査官が対立し、警視庁と警察庁が対立し、警察庁と検察庁が対立する。それは捜査情報がマスコミにリークされたことが一度ならずあったことからもわかる。

そして、オウム真理教信者にして警視庁警察官である被疑者の自供が曖昧且つ変転を繰り返す度に、捜査側がそれに振り回され各組織の思惑の違いに拍車をかける。後知恵であることを覚悟で言えば、もう少し地道な証拠固めをして見込み捜査を避ければ、もっと何とかなったのではないかと、捜査の素人としては思う。

ただ、最も貴重な物証である銃弾についての捜査結果が示す事実が、様々な深刻な矛盾に満ちており、その謎は遂に解明されずに終わっていることからすると、容易ならざる事件であることは素人ながらも想像はつく。捜査のプロの方々が様々に迷走されるのも宜なるかなという気がする。

本書を読んでも狙撃事件の真相はわからないが、捜査の様相はある程度理解できる。その意味で、興味ある一冊であることは間違いない。


講談社
1900円+税