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2010.06.27(日)

犬はどこだ

米澤穂信

ちょっと異色の探偵小説である。主人公の探偵は、犬探しを専門とするということになっていて、浮気調査や犯人探しの探偵の設定とは異なる。尤も、実際は犬探しで開業したのに人探しを依頼されることからこの話は始まり、そして、結局犬探しは殆ど筋に関係しない。

なぜ主人公をこの様な業務を内容とする探偵に設定したのかと言えば、主人公が一度、銀行員勤めという職業に失敗し、社会的に脱落した経験を持つので、そこからの立ち直りの第一歩として犬探し探偵稼業を始めたということなのである。人探しのストーリー展開と並行して主人公の立ち直りが語られて行くという構成になっている。

もちろん結末は書かないが、こういう結末も「あり」なんだなぁと感心させられた。ある意味で未完の結末であり、読後に余韻を引き摺る。それが何となく心に残る。悪い読後感ではない。

最近、警察小説ばかりに凝っているが、こういうのもたまには良いものである。お奨めの一冊である。


創元推理文庫
740円+税