21世紀の近未来を舞台とするSF。というよりSFミステリーというべきか。
主人公はアメリカ人で、情報軍特殊部隊の大尉で暗殺を主任務とする。日本人は一人も登場しないし日本は舞台にもならない。これが日本人によって書かれる必然性は殆ど感じられない。ただ、英語に翻訳されても十分英米の読者の鑑賞にも堪えるのではないかと素人ながら思う。
主人公が任務を遂行する過程で、一人のアメリカ人が浮かび上がる。そして後半の大部分はこのアメリカ人を標的にする主人公の行動が、そしてそのアメリカ人が描かれる。そこここで交わされる文明論・社会論は大変興味深く、普遍性を有すると思う。アクション・シーンもない訳ではないが、そこに重点はなく、寧ろ人類による「虐殺」と「平和」という両極を軸に思弁的会話や独白が続く。その内容が濃い。普遍性を有し他国語に翻訳されても通じるのではないかという所以である。
主人公のモノローグという構成だが、語り口は憂愁に富んでおり、それもまた魅力のひとつになっている。
ある種の悲劇的結末は、そうならざるを得ないのかなとも思うが、著者が夭折せずに(34歳で癌でお亡くなりになった)あと何作か作品を書けていれば、もう少し希望の一筋でも見える小説が期待できたのかも知れない。惜しまれる。