山口組直参の後藤組元組長後藤忠政氏の独白である。日本一の暴力団山口組の元幹部にして、引退後、得度・出家し在家として生活しておられる。
僕は、高倉健さんや鶴田浩二さんのいわゆる東映任侠道のヤクザ映画は殆ど見ていないが、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズには学生時代に間に合った世代である。京都の学生時代に、シリーズ一挙上映なんて興行をやる京一会館という邦画館に通って「仁義なき戦い」のある種の美学に酔いしれた。菅原文太さんの広島弁のかっこよかったこと。
で、本書がそういう任侠道の映画を髣髴させるかと言えば、必ずしもそうではない。チンピラ・愚連隊から殆ど必然的にヤクザになられたらしいが、その道行きが必ずしも私自身にぴったり来ない。人の人生・道行にはある種の必然性がある筈だという思い込みが私にはあるのかも知れない。なぜ、著者がいわゆる極道の道を進んだのか、今ひとつピンと来ないのである。しかし、他人の人生なんてそう簡単にわかったり納得できたりするものではあるまいし、言葉を道具とする仕事をして来られた訳ではない著者に、説得的な説明を求める方がないものねだりというものだろう。
その辺の物足りなさは若干残るが、書かれてある物事は、創価学会とのやりとりや故伊丹十三監督襲撃事件など、不謹慎ながらそれなりに面白い。また、説かれる人生観や社会観は比較的常識的で、特に驚かされるところはなく、寧ろごもっともという感覚である。
現在は、袴田冤罪事件に真正面から取り組んでおられるそうである。出家された事実と重ね合わせるともっと突っ込んで聞きたい部分ではある。