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2010.06.29(火)

久野収セレクション

佐高信 編

市民派の哲学者として知られた久野収氏の論考を、辛口評論家で知られる佐高信氏が編んだ論文集である。

久野氏は、第二次世界大戦中、日本軍国主義に反対して週刊誌「土曜日」を発刊する等の活動をしていたが、当然、当時の当局に睨まれ投獄の後、沈黙を余儀なくされた経験から、戦後、様々な活動に関わった。知識人の役割、そして市民の役割・位置づけを考え続け論じ続け、且つ考え論じるだけではなく、現実のべ平連活動などにも積極的に関わられた。

その存在は知りつつ気にはしていたのだが、特に書物を買い求めるということはして来なかったので、今回、あの佐高信氏が編んだという選集が文庫で読めるというので買ってみた。一読して、決して平易に読めるという論集ではないが、その論理と論陣を張る緊張感は伝わって来る。いわゆる左翼の陣営に埋没することなく、人民戦線的に市民として左翼とも連携を図るというスタンスであるため、反共的言辞はないが、だからといって左翼礼賛と言う言辞もない。基本は市民である。

この「市民」とは、“職業”を通じて生活を立てている“人間”と定義される。そして、この職業と生活は明確に分離されなければ市民として成り立たないとされる。詳細な定義は、引用が長くなりすぎるので止めるが、いわゆる60年安保で国会を取り巻いた市民大衆が念頭にある。これを左翼的観点から「労働者階級」と規定しないところに氏の面目がある。

民主党政権で、日本の右傾化に一定の歯止めがかかるかと言えば正直なところ私は悲観的だが、「市民」に期待される役割は益々重要性を帯びているし、これからもそうであるだろう。その意味で、本書を紐解く意味は十分にあると考える。


岩波現代文庫
1300円+税