甲能法律事務所甲能法律事務所
検索
福岡市弁護士甲能ホームメディア評インデックス『格差』の戦後史 階級社会 日本の履歴書

メディア評インデックス

2010.04.10(土)

『格差』の戦後史 階級社会 日本の履歴書

橋本健二

本書でいう「階級」は、経済的観点からのものである。伝統的なマルクス経済学で資本主義社会の階級というときは、生産手段を所有している者ら(資本家)と生産手段を所有せず自らの労働力を売るしかない者ら(労働者階級)の二分法である。著者は、その後の社会と学説の発展を捉え、農民や商工業者を旧中間階級とし、組織内の高い地位や専門的技能・資格を有する者らを新中間階級とし、この資本家・労働者・旧中間階級・新中間階級の四分法に基本的に立ち、これらの階級がどう戦後日本を構成して来たかの変遷を、豊富な統計資料を基に跡付ける(この四分法はもっと厳密な定義がなされているが、それは本書を直接お読み頂くしかない)。

終戦直後、高度経済成長期、現在に至るまでの停滞ないし不況期でそれぞれ階級構成がどうなり、階級間格差が大きくなったか狭まったかを確認してゆくのだが、基本的に現代は格差が広がりつつあるという認識である。しかも、階級間移動が少なくなっているという認識も示されるので、いささか暗然たる気分になってくる。特に労働者階級以下とさえ言える浮遊層(富裕層と対極にある)などは、どうして国はこういう貧困層を放っておくのだという気になる。資本家の息子は資本家になり労働者の息子は労働者になるしかなく、且つ階級間の格差が益々広がって行くのでは、人間は皆、生まれながらに平等でなければならないという建前の信奉者である私などは、本書で分析される日本の現状には怒りを禁じ得ない。

しかし、怒る前に現状を冷徹に分析する目は絶対に必要であり、その様な視点を与えてくれるのが本書である。格差社会論が些か感情的に更にいえば扇情的にさえ叫ばれる現代、よって立つ基盤をシッカと見据えるためには好個の書ということができよう。


河出ブックス
1200円+税