ベルリンの壁崩壊に象徴される、1989年を中心に東欧で起きた共産党一党支配体制の一連の崩壊を、綿密な取材でルポしたものである。
東ドイツ・ポーランド・ハンガリー・チェコスロバキア(当時)・ブルガリア・ルーマニアという崩壊前のソ連を中心としたワルシャワ条約の軍事同盟加盟国(当時、アメリカと西ヨーロッパとアメリカの軍事同盟NATOに対抗して形成されていたもの)が、1989年を頂点に軒並み民主主義国に国政転換した。ソ連・東欧とアメリカ・西ヨーロッパの冷戦は、当時厳然と存在しており、ソ連・東欧では共産党一党支配が磐石の体制だと私などは信じていたので、この一連の政変は正に驚天動地で、これに続くソ連のクーデタ未遂やソ連崩壊は、現代史上、私の目を見張らせるものだった。言論の自由が制限され、国家に反抗的な言辞を吐く者は迫害を受けるという体制、一党支配の下経済は社会主義の計画経済でただ1970年代後半になると物不足を初めその綻びが目立って来ているというのが、当時の私の認識だった。東欧でもハンガリー動乱やチェコの「人間の顔をした社会主義」という自由化を求める動きはあったが、ソ連軍と同盟のワルシャワ条約軍に圧殺されたということは世界史で習っていた。
そういう自由の封殺された社会主義国という見方で凝り固まっていた当時の私は、新聞・テレビで報道される1989年の東欧の変革は信じられない思いで受け止めていた。特にベルリンの壁崩壊の映像とルーマニアのチャウシェスク大統領の銃殺場面の映像をテレビでみたときは、1974年のベトナムのアメリカに対する勝利くらいに感動した。自由は必ず勝つのだというような、どこかの政党のスローガンの様な思いが去来したのを思い出す。
その東欧革命を、各国横断的に概観し、反体制派が当初さざ波の様な動きから最後は体制を転覆するまでの大波に至るまでを追った本である。少々長いし値段も安くはないが、当時の感動を思い出して買い求め、頁をめくった。各国の自由を求める者たちの群像と、それを封殺しようとする体制側との記述が延々続いて、正直読みやすくはない。チャウシェスク処刑という衝撃的な場面から始まるのだが、それでも特に前半は少々冗長で読むのに根気がいる。しかし、当時の東欧で何が起きつつあり起きてしまったのかを詳細に跡付けているので、読まざるを得ない。各国の革命が成就する後半はある種のカタルシスがあり読むスピードも上る。
読み終わって、どうしても物足りないのは本家本元のソ連の記述が薄い。ソ連が最終的に崩壊したのは、ゴルバチョフが軟禁されクーデタ未遂が行なわれ、これにエリツィンが国会に向けて戦車の大砲を発砲するというロシアの激動があったからで、それで「東欧革命」は一応の完結を見る訳だから、そこまで書いてもらわないと衛星国の共産党支配崩壊まででは正直なところ尻切れトンボの印象は拭えない(それでも大著だが)。
わずか20年前の現代史だが、現代を俯瞰する上で殆ど不可欠のノンフィクションといえよう。