日本の死刑を多角的に取材したルポルタージュである。敢て、死刑廃止論・死刑維持論の両者のスタンスのいずれかに立つのを避けている。
加害者(死刑囚)、遺族、死刑執行を担う刑務官など、多数の関係者からの取材で平均的でかなり具体的な死刑像(それを取り巻く人々を含む)を描き出している。構成内容は4人を殺害した少年グループの事件を軸に、様々な事件を配している。そして、様々な死刑囚と様々な遺族や関係者が登場する。
読後感は重い。私自身、死刑には賛成か反対か気持ちが整理しきれていない。本書はそういう人たちに向けて考える素材を多角的に提供するという形で意図された。素材の提供に留まり、それ以上に賛成反対の論は意図的に書かれていない。読者に考えて欲しいということである。
ここで蛇足的な法律論を持ち出せば、日本国憲法は死刑を認めているので、死刑を廃止するなら憲法改正を行なわなければならない。廃止論・維持論の論争の中ではその方向での議論もなされているのだろうが、本書では取り上げられていない。法律ではなく人間を描き出そうとしているからだ。
合法的な殺人等あってよい訳はないという立場と、犯した罪に見合うだけの刑を受けなければならないという応報刑論の立場のどちらにも私は共感する。
ただ本書では冤罪の可能性を残したまま刑が性急に執行された例が出てくるが(私も仕事上関係している)、冤罪で刑が執行されれば取り返しはつかないのだ。或いはその1点だけで、死刑廃止の方向に傾いているのが私の現状である。
死刑制度の是非を考えるのに、良い素材となる本書である。