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2009.11.07(土)

北方領土特命交渉

鈴木宗男 佐藤優

これは、北方領土交渉にあたった当時自民党国会議員の鈴木宗男氏と担当外務省職員の佐藤優氏の、交渉をめぐる対談である。

文庫の帯に「生死を賭けた取引と血も凍る謀略!まるで極上のスパイ小説」と謳ってあり、そのコピーと佐藤氏のこれまでの著作の優秀さに引かれて購入した。はっきり言って上記の帯のコピーは過大広告である。北方領土返還を巡って旧ソ連時代から現ロシア政権までの駆け引きが語られているが、それは国家間の全うな領土交渉であって、スパイ小説お定まりの謀略等を期待すると大きく宛が外れる。或いは本来の秘密部分は書かれていないのかも知れないが。

しかし、交渉の記録や内容、それを巡る人間模様などは読んでて面白い。ソ連首脳・ロシア首脳の人間的な側面も明らかにされ、日本側でも首相はじめ政治家と外務官僚の姿が赤裸々に対話されている。特に、今の外務省に絶望しているお二人は、完全に名指しで担当職員を批判する。名指された職員は名誉毀損で訴えたっていいくらい批判される。本書で(或いは佐藤優氏の著書で)名誉毀損裁判が起こされたとは寡聞にして聞いていないので、名指されたほうとしては黙殺しているということなのだろう。

自分の無知を曝け出すが、日本とロシアは未だ平和条約を交していない。国交はあるが、国家間の成文条約は、領土問題がネックになって進んでいないのだ。ここを一歩でも二歩でも進めようとするのが著者らの努力であるが、何十年も前からの交渉の積み重ねを前提に柱を建てていこうとするのだから、これは根気のいる作業である。外交交渉はこういう風に進められるのかと大変勉強になる。

私は北方領土については詳しくは知らないが、国と国のすなわち主権と主権の対立になる訳だから、どうしてもシビアにならざるを得ないのだろう。私は無知ゆえ北方領土への態度表明は出来ないが、本書は返還を求める立場からの憂国の書である。一読の価値はあるだろう。


鈴木宗男 佐藤優<br />講談社α文庫
講談社α文庫
838円