ミステリーかと思って読み出したら、確かに犯罪も謎解きも出ては来るが、むしろ家族小説とでも呼ぶべき内容であった。宛が外れたから面白くなかったかと言えば決してそうではない。
謂れがあって異父兄弟となっている「泉水」という兄と「春」という弟の交流に癌で闘病中の父がからむ。連続放火事件の謎というのが確かに一つの軸にはなっているのだけれど、主眼は寧ろ、この兄弟・父の交流にある。奇矯な行動を取る弟、常識人ぽい兄、それに全てを理解している様な父の三者の交流過程が心惹く。兄弟でちょいと洒落た会話を交すのだが、それに父も参加する。その過程で、既に亡くなった母の思いでも顔を出す。
血の繋がりが家族の絆の全てかというとそうではないと誰しもが答えるだろうが、その血の繋がりがないことで却って強固な絆ができる、そして不幸な事件を背負った人間が家族によってどう日常を送るかというのが、軽妙な会話を挟んで語られる。
基調は全体的に軽妙だが、内容自体は重い。家族を形作るものは何か、今一度、考えさせられる小説である。