プロ野球は好きだが、中々ヤフードームにまで足は運べない。テレビかスポーツ新聞でしか内容を把握しないものだから、本書に登場する様々な職種の裏方さんのことは殆ど知らなかった。その意味で、本書にはまず無知を啓く面白さがある。
しかし、新たな仕事を知る喜びよりも、寧ろ登場する裏方さん達のプロ根性に感動する。プロ野球は選手と監督と観客だけでやられている訳ではなくて、ここに登場する様々な職種の裏方さん達に支えられて、あの華やかな試合が観られるのだと実感する。
解説の重松清氏も述べておられるが、本書の個性は、いわゆる裏方「賛歌」という内容ではなく、裏方を真正面から「正しく」評価することに主眼がある。だからお涙頂戴の結末も特に用意されない章が幾つもある。裏方の尽力でこんな良い結果が出たという甘っちょろい締めくくりをせず、裏方を正当に評価しつつ苦い終わり方をするのに躊躇しない。というより、話を予め作ろうとしての小手先のエピソード集めではないため必然的にそうなるのだろう。現実は劇的な結末などそう簡単には用意しないのだ。
プロ野球を観る観点が重層的になるという意味で、野球ファンにはお奨めだが、特に野球ファンでなくても、仕事としての裏方論として十分読み応えがあると思う。