文庫版の全集。読みでがある。手塚先生ご自身のマンガ(当たり前)、小説、シナリオ、対談、講演、エッセイ、手塚先生および手塚作品に対する各種の評論と、ステレオタイプである。全700ページを超えるので、ファンでなければ読み通せないかもしれない(尤も、ストーリーマンガではないのだから、マンガと面白そうなところだけ拾い読みして全然かまわない訳だが)。講談社版の手塚全集は400巻を超えるので(全巻欲しいなぁ、けど置き場がないしなぁ)、文庫本1冊を全集と評するのはどうかと思うが、ステレオタイプという意味ではやはり全集と言わざるを得ないだろう。
手塚ファンを自認する私に目新しかったのは、シナリオである。ただ、読んで行くとたとえ「上手より○○登場」等とシナリオ風に書いてあっても舞台は全く思い浮かばず、完全に手塚マンガしか頭にイメージできない。ある意味当たり前なのだろうが、逆に言うと手塚先生はご自分のマンガはこの様なシナリオを作って描かれておられたのかなとも思う。しかし、昔、手塚先生の名著「マンガの描き方」を熟読玩味した私の記憶では、確かシナリオではなくて絵コンテを推奨しておられた筈だ。やはり役者さんにわたすには活字のシナリオしかないのかなと思う。ちなみに映画界の方の巨匠である黒澤明監督は絵コンテを作成しておられたと何かで読んだ。それを考えると、シナリオと同等の絵コンテを作られると監督や演出家の出る幕が少なくなるのかもしれない。
手塚先生と手塚作品に対する評論は、言っちゃ悪いが玉石混交。「んなこと、わかってるよ。」と思うものや「ふーん、なるほど」と思うものまで様々である。
文庫本にしては厚くて少々高いが、その価値はある。