主人公は、警察庁の長官官房の総務課長。バリバリのエリート官僚である。東大出のキャリアで同期の出世競争の中でもトップクラスを走っている。そして、そのことに自負を持ち全く疑問を抱いていない。警察小説では、はぐれ刑事が警察組織と対立しながらも犯罪者と戦うという構図が結構多くて、ここまでキャリアで主流派の自信家を主人公にしたものには私自身は余りお目にかかった記憶がない。ただ、警察官僚とは国家・国民を守る立場にあるという信念を主人公が真正面から頑なに信じている点で、周りからは「変わり者」扱いされている辺りが作者のバランス感覚を感じさせる。
殺人事件を扱うストーリーではあるが、警察権力が捜査を進めて犯人を追い詰めていくという組み立てよりは、エリート官僚の主人公がいかに警察組織の危機を乗り切るかという言わば危機管理小説といった色合いが濃い。同時に家族の危機も乗り切ろうとするのだが、エリート官僚の家族とはどういうものかという点では一種類型的と言えないでもない。ただ、家族の危機を乗り越えるのと警察組織の危機を乗り越えるのが同時進行的に進むという構成では、家族の描き方もこの様なものにならざるを得ないのかもしれない。
作者がどこまで取材されたのか、どの辺りまで官僚組織の真実なのか、飽くまで全てがフィクションなのか、かなり興味が湧く。
「すまじきものは宮仕え」と私自身は小役人時代感じていたが、トップエリートとなるとやはり違うのかもしれないと思ってしまった。