甲能法律事務所甲能法律事務所
検索
福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス名古屋高裁、空自イラク活動一部違憲判断

判例解説インデックス

2008.04.19(土)

名古屋高裁、空自イラク活動一部違憲判断

憲法判断に踏み込む

名古屋高裁は、4月17日、航空自衛隊が行なっているイラクでの空輸活動が憲法9条1項に違反する活動を含んでいると判断した(4月18日朝日朝刊)。尤も勝訴者は国。

判決文本文そのものを新聞記事が伝えていないので、推測になるが、原告が求めていたのは、自衛隊のイラク派遣が違憲であることの確認、イラク派遣の差止、違憲のイラク派遣による平和的生存権侵害の慰謝料、ということの様である。違憲確認と派遣差止は、不適法却下ということらしい。訴えの利益がないということなのだろう。「訴えの利益」とは、「裁判所に判断を求めてまで紛争を解決する具体的な自己の利益」という様な意味である。だから例えば、少しイメージが違うが、天動説が正しいか地動説が正しいかなんて裁判所に判断を求めても、学説論争だけの話で誰の紛争利益も解決しないので裁判所は受け付けない。

本判決が画期的なのは、(1)平和的生存権の具体的権利性を認めたこと、(2)自衛隊活動の一部を違憲・違法と判断したこと、の2点。

まず、憲法の前文は「(日本国民は)平和のうちに生存する権利を有する」と謳ってあり、これが憲法9条などと相俟って憲法が「平和的生存権」を保障しているのだ、という学説が一方である。他方、前文は飽くまで「前書き」であって、裁判所が権利性を判断できるのは第三章「国民の権利及び義務」が基本だ(その中でも具体的権利性はないと主張されている権利もある)、だから「平和的生存権」はスローガンに過ぎず、裁判で、侵害された権利という形では主張できないのだ、という学説もある。そして、名古屋高裁は具体的権利性を認めたらしい。但し、違憲なイラク派遣で平和的生存権が具体的な侵害まで受けた訳ではないということの様である。

他方、バクダットがイラク復興支援特別措置法の「戦闘地域」に該当するかという判断においては「該当する」とし、さらに「戦闘地域」での武力行使を禁じた同法違反・憲法9条違反まで認めた。

結論的には原告らの請求を退けたものの、傍論の判断では憲法判断まで示したことになる。

原告らが上告しない場合、国は結論においては勝訴しているので上告できず、結局、この高裁判断が確定する。それを目的に原告らは上告しないそうである。