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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス福岡地裁、元警部補に「特別公務員暴行凌虐罪」有罪認定

判例解説インデックス

2008.03.21(金)

福岡地裁、元警部補に「特別公務員暴行凌虐罪」有罪認定

違法捜査を厳しく批判

福岡地裁は、平成20年3月18日、鹿児島県警の元警部補が選挙違反捜査の際、取り調べ相手に対して、特別公務員暴行凌虐罪を犯したとして、懲役10ヵ月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した(朝日新聞3月19日朝刊)。

特別公務員暴行凌虐罪とは、条文を引用すると「裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は凌辱若しくは加虐の行為をしたときは、7年以下の懲役又は禁錮に処する」というものである。警察官などの特別の身分にある者のみが犯す犯罪(身分犯という)で、被告人や被疑者、取り調べを受けている者に対して、暴行、凌辱(辱めを与えること)、加虐(虐待すること)をなしたときに成立する。刑事権力を司る公務員の権力乱用を厳しく戒める規定である。

本件では、元警部補が選挙違反で任意聴取の際、取り調べ相手の父や孫の名前と「お前をこんな人間に育てた覚えはない」などと書いた紙3枚を相手の足元に置き、両足首をつかみ1回踏ませ精神的苦痛を与えた、という点が「凌辱加虐」に当たるとされた(判決文を引用されていないので「凌辱」なのか「加虐」なのかまではわからない)。

踏まされた回数には争いがあるようだが、踏ませたこと自体は被告人側は争っていないので、当然の判決だろう。本件では、選挙違反事件自体は無罪判決が確定しており鹿児島県警の違法捜査が批判されているので、その違法捜査の一端が裁判所で裁かれたことになる。

先日も福岡地裁小倉支部が、被告人の同房者に対する供述を「自白」とすることに任意性を認めず同房者を意図的に送り込んだようにも取れる捜査方法が相当性を欠くとして無罪判決を言い渡した。

捜査の適正を保つために、捜査の可視化が進められている背景がこれらの判決にある。