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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス大阪地裁、取り調べ撮影のDVDにより自白調書の証拠請求却下

判例解説インデックス

2007.11.18(日)

大阪地裁、取り調べ撮影のDVDにより自白調書の証拠請求却下

検察官の自白誘導認定

11月14日、殺人未遂で起訴された男性被告の公判で、取調べの様子を撮影したDVDが証拠採用され、その映像を観て、大阪地裁は検察官側が被告人の自白調書の取調を請求していたのに対して却下したという(朝日夕刊11月15日)。

刑事訴訟法322条は、「…被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき状況の下になされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑いがあると認めるときは、これを証拠とすることができない。」と定める。法律の条文はわかりにくいと思うので、かなり不正確を承知で日常用語に言い換えると「被告人の言い分を聞き取って被告人の署名か印鑑を得た書面は、その言い分が自分に不利な内容を認めたものか、特別に信用すべき状況で言われたもののときに限って証拠にできる。但し、自分に不利な内容を認めたもののときは、任意に(つまり自由意志で)されたものでない疑いがあると認められるときは、証拠にできない。」というのである。

新聞報道によると、この大阪地裁の事件では、被告人は捜査段階では殺意を認めたが、公判段階で殺意を否認したとのことなので(ナイフで刺して怪我をさせた同じ事案でも殺意があれば殺人未遂罪なければ傷害罪、罪名はもちろん法定刑の重さも格段に違う)、上記の322条本文に基づいて、捜査段階の殺意を認めた調書を検察官が証拠請求し、それが証拠とできるかどうかで、上記322条但し書きの「任意性」が問題になったのだろう。そして、その任意性の立証として、取調状況を録画したDVDが公判で証拠採用されたという流れだろう(取調請求は検察側・弁護側双方とのこと)。

しかし、そのDVDでは、寧ろ検察官が誘導した、すなわち被告人の自由意志に基づくものではないと判断されたのだそうである。

日弁連は取調の可視化、すなわち取調状況を全て録画することが密室捜査による自白誘導・冤罪の発生を未然に防ぐという運動を推進している。それを実証する形の裁判所の判断である。ただ、検察官もDVDの取調を請求したということなので、任意性立証に十分な自信を持っていたのだろうから、変な気がする。或いは穿った見方をすれば、弁護側が請求するのに反対すれば任意性が立証できないと思われてしまうので、行きがかり上請求せざるを得なかったのかも知れない。この辺りは本物の公判を傍聴しないとわからないので、憶測に過ぎないが。