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2006.06.15(木)

こんなに楽しい!妖怪の町

水木しげる監修、五十嵐佳子著

何となく水木しげる先生の自伝ないし評伝かと思い込んで買ってしまったのだが、そして確かに内容的にそういう部分もあるにはあるが、実は水木先生と妖怪を梃子にした境港市の町おこしのルポといった方が正確である。

さびれつつあった境港市で、同市出身の水木先生と妖怪に目を着けた当時の市長と市職員が市民を説得して回って、境港市を妖怪と水木しげる先生のワンダーランドに仕上げて行く。そして、それが日本全国に知れ渡って、沢山の人々が境港市を訪れるようになるのである。

まぁ実際、様々な妖怪のブロンズ像を市の目抜き通りに設置しようという発想は、幾ら水木先生が有名だったとしても尋常ではないと思う。「妖怪の町なんて」とそのコンセプトに当初市民から反対があったのも当然だと思うが、その反対を市職員が説得して回ったのだそうである。そして妖怪のブロンズ像を設置したところ、全国的な反響を呼び、遂には水木しげる記念館まで立ち上げ、鬼太郎列車だのネズミ男列車だのを走らせ、鬼太郎が鳥取県の観光大使にまで任命されてしまう。妖怪ジャズフェスティバルなんてものまで開催するのだから大したものである。

本書でも触れられているが、一時期、「ふるさと創生」なんて標語で1億円のバラマキ行政が行われたことがあるが、それによって所謂町おこしに成功したところは皆無である。ところが、境港市はユニークなアイデアで町おこしに成功した。他の自治体も見習うべきであろう…とは、しかし、私は言えない。他の町には水木先生がいないからである。手塚治虫先生に対しては宝塚市が市立の手塚治虫記念館を開設しているが、それでも手塚キャラクターをブロンズ像化して町のメインロードのそこここに配するところまで行っていない。手塚キャラクターと鬼太郎始め妖怪キャラクターの違いもあろうが、町の雰囲気や住民と水木先生という出身者がピタリと嵌っているのだろう(本書の冒頭に妖怪ブロンズ像の写真と解説が延々100体にわたってなされているが、大真面目にブロンズ化されているところが何か人を食ったユーモアに溢れ遂々笑ってしまう)。他の町が見習うべきだとすれば、郷土出身の名士に頼る町づくりというところではなくて、全国にここしかないオンリーワンを探し出して、それを展開するというところだろう。

本書で紹介されている話だが、「ゲゲゲの鬼太郎」のゲゲゲは、私は妖怪の言葉か呪文か何かだろうと漠然と思っていたが、水木しげる先生の「しげる」を幼少年期の友達がうまく発音できなくて「ゲゲゲ」と呼んでいたことから来たのだそうである。


水木しげる監修、五十嵐佳子著<br />実業之日本社
実業之日本社
1600円+税