これは、「ボク」の「オカン」「オトン」との物語である。著者の自伝的小説であるらしい。その意味で私小説である。
内容は、世情よくある家族の一風景と言ってしまえば身も蓋もないのだが、別居する「オカン」と「オトン」。「オカン」と住む「ボク」。やがて「ボク」は高校から一人暮らしを始め、家族はバラバラになる。そして、「ボク」が東京の大学に行き、卒業して余り裕福でない生活をしているうちに、また「オカン」を東京に呼び寄せて二人で住む。「オトン」はときおり節目節目に顔を出す。
波乱万丈とか抱腹絶倒とかいう言葉とは無縁の他愛ないストーリーが続くのだが、読ませる。著者独特の饒舌体とでもいうのだろうか。また登場人物の筑豊弁が懐かしい。それもあってか、比較的長い小説の割にスラスラ読めてしまう。
一種の人情話である。と一言で切り捨ててしまえなくもないのだけれど、後半、特に「オカン」の闘病生活と他界には思わず泣かされる。
ケレンミのない清々しい人情話として読めば、それも一興だろう。