今までミステリーばかり読んで紹介して来たが、一般小説を読む楽しみを久しぶりに堪能した気がして、喜んで紹介したい。
第二次大戦直後の日本人シベリア抑留を背景に、ソ連の極東軍事司令部があるハバロフスクが舞台。主人公の小松修吉は、東京外語大学・京都大学を出たインテリでロシア語に堪能、戦前の非合法化されていた共産党の秘密活動に従事していたが、ある事情で満州に逃れてきた。
その彼が、「革命の父」レーニンの若き時代の手紙をひょんなところから入手する。当時のソ連邦ないしソビエト共産党史を覆しかねない内容を持つその手紙をめぐって、主人公とロシア人幹部の虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。
この辺りの小説の面白さは格別だが、それとは別に当時の日本人捕虜の世界の醜悪な部分、もちろんソ連党幹部の腐敗、国家・国民性への怒りその他、遠慮会釈なく書き込んであり、多分、史実だろうと思われるので、その酷さには戦慄する。
怒ったりハラハラしたりニヤリとしたり、小説の面白さを十分盛り込んだものである。長さも手ごろで、達意の文章で読みやすい。
本書は雑誌連載を一冊にまとめたものであるが、本来は単行本化するに際して著者の加筆訂正が入る予定だったものが著者のご逝去で果たせなかったものである。そのため、若干、重複や未解決の問題(当時の共産党を壊滅させた警察のスパイMのことなど)の難点がない訳ではない。しかし、その様な欠点を補って余りある傑作だと考える。