以前、「超・格差社会アメリカの真実」という単行本(本欄2007・5・26)、また「アメリカ医療の光と影」(本欄2007・3・3)という単行本の書評をそれぞれ本欄で書いたが、本書を読んで改めてアメリカ社会の歪みに驚かされた。どんな分野も民営化・自由競争化される結果、「富める者は益々富み、貧しきものは益々貧しくなる」いわゆる弱肉強食の野蛮な社会となるのだ。そして、その格差が固定される。近年日本でもワーキング・プアや派遣切りという用語で格差・貧困が問題となっているが、本書で描かれるアメリカのようになってしまうかも知れないと考えると暗然とせざるを得ない。
本書によれば、アメリカでは「落ちこぼれゼロ法」なる教育法が制定されたが、実はそれは特に高校生の個人情報を軍が収集して大学進学費用負担を餌に貧しい家庭の子をリクルートすることに主眼がある。そうして軍に入隊した子供はイラクに送られる。またイラク戦争の遂行についても、「民間委託」が進み、一部の企業が肥え太っていく。教育でも民営化が図られ教育予算が削られ(例えば奨学金が民間ローンと化す)、医療でも自由競争原理が導入されて無保険の貧困者が増えて健康被害が増大し、防災予算が削られてハリケーン被害が拡大する。国民の庇護者たるべき国家の守備範囲があらゆる面で私企業に侵食され、一部大企業が大儲けする一方で多数の国民が貧困化して、いわゆる中間層がどんどん没落する。アメリカ社会が殆ど絶望的な社会に見えてくる。
しかし、これではいけないと声を上げる市民が多数表れだしているところにアメリカ社会の希望がある。
ヘタすると日本もいずれこうなる、というより既に格差が現実化することによりアメリカ社会に一歩も二歩も近づいているらしい。やはり日本でも「反貧困」を掲げて戦う必要がある。