脳科学の本と思いきや、どちらかと言えば健康指南書の趣が強い。
もちろん、症状の原因を語るときには脳科学的というか脳医学的な説明が入るのだが、その対策となると、かなり日常生活の生活改善に比重がかかってくるのだ。なぜなら、「思考が止まる」「言葉に詰まる」という症状が、実は、現代の効率至上主義とIT 化に日常的に晒されている人間に普遍的に現れやすいという警告を含むからだ。我々の便利な日常を敢えて不便にすべきだという提言とも読める。
著者は、高次脳機能の役割を果たす前頭葉の機能が落ちてくるといわゆるボケ症状が始まるとし、それはパソコンやインターネット、メール等に頼ることによって、従来、脳が自ら果たしてきた機能をIT機器に肩代わりさせ、そのことによって、脳機能の一部が休止してしまうという流れを説明する。
生物の器官は使わなければ退化するというのは生物で習ったが、もちろん脳においてもそれが当てはまり、最近のIT技術の発達が脳機能の肩代わりにより脳を退化させていると読める。例えば、以前は知識情報はメモったり暗記したり何らかの自発的な作業で知識情報を保持する作業すなわち記憶することが必要だったが、今は、インターネットで情報検索をかければ一瞬にして知識情報が入手できる。そうすると、意識的な記憶「作業」を自らしないものだから、「思い出せない」或いは「そもそも覚えていない」ということが出てくるということになる。
私も仕事上パソコンを常時使用しており、確かに脳がフリーズする瞬間は稀にある。我々の仕事は単調作業という訳ではないので、これを続ける以上ボケずに済むかなという期待がないではないが、どうかしら。