実話だそうである。題名は、日本語の表記からしてアメリカギャングのスターという意味かと思っていたら、スペルが“AMERICAN GANGSTER”となっていて“STAR”ではないので、辞書を引いてみたら「ギャングの一員、悪漢」という意味とのこと。“STAR”とは全く関係がなかった。ただ、アメリカの裏社会では一時名を馳せたフランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)という麻薬王が一方の主人公なので、まぁ全く的外れの連想という訳でもなく、私と同じ誤解をしている観客も多いのではないかと思う。
実直でやり手のビジネスマンといった風情のフランクと、賄賂を受け取らないことで「ボーイ・スカウトかよ」と他の警察官から疎まれ浮いてしまっているリッチー・ロバーツという刑事(ラッセル・クロウ)の対決なのだが、対照的な二人のキャラが面白い。両者とも属する社会で浮きながら自らの主張を貫くという設定で、大変男臭い映画である。フランクが結婚相手を見初める場面を除くと甘美なラブロマンスは微塵もない。リッチーに至っては離婚で親権を取り合う場面に哀愁が感じられる。アクションシーンも確かにあるが奇を衒った派手さがある訳でもなく、正統的なギャング映画の創りといえようか。
ベトナム戦争末期のアメリカの雰囲気が良くわかる。死体となって帰国する兵士の棺桶に麻薬を忍ばせて密輸するというのが実話なら、ベトナム戦争の是非は措くとしても愛国者と呼ばれた兵士の死体をも利用するという意味では退廃も極みか。
2時間を越える映画だが、長さを感じさせない。
ちなみに私はアメリカ政府の政策には反対だが、ハリウッド映画は良く観るし面白いと感じる。矛盾かと思うが、劇作家の井上ひさし氏もそうだと伺っている。だからといって言い訳にはならないだろうが。