谷川彰英氏(筑波大学副学長)の監修による手塚先生の短編8編を編んだ「教科書」である。「教科書」という標題が示すように、どうも学校の「道徳」の教科書ないし副読本を狙った様にも取れる編み方である。
確かに手塚ヒューマニズムの典型例となる作品が選ばれ、手塚ファンの私からしてもそれはそれで読み応えがあるのだが、作品ごとに付いている監修者の道徳的な解説が、どうも説教臭がして私自身はいただけない。教科書ないし教科の副読本という性格づけをするのであれば、生徒(多分狙っているのは学生と呼ばれる年齢層ではない)に理解させるのに解説は不可欠という発想なのかもしれないが、私自身は解説不要、手塚作品を読むだけで十分だと思う。活字で余計な解説をするのはマンガ本来の訴求力を殺ぐし、況して解説に説教臭が塗してあれば尚更である。監修者の善意は疑わないが、本としてはどうだろう。但し、本当に学校の副読本に採用されるのを狙っているのであれば、教師としては解説が欲しいところか。その意味では止むを得ないのかも知れない。
選ばれた作品自体は手塚ヒューマニズムの前向きな内容を著すもので、それはそれで悪くはないのだが、手塚先生にはニヒリズムやシニシズムの側面もあるので、「教科書」という性格上そういう傾向の作品は落ちているのは止むを得ないにしても、些か物足りない感は否めない。世界はヒューマニズムだけでは切り取れない側面を多々含むし、手塚先生はそういう側面も作品によっては抜かりなく描いているので、本書が一つの切っ掛けになって手塚先生の他の作品にも触れ、子供たちが世界を捉える目を養って行くことを期待する(但し、手塚先生は間違いなく天才だと私は信じているが、しかし時代の制約から免れない側面も勿論あるので要は手塚先生とはいえ盲信しないことだ)。