かのジョン・レノンを撃った男の、撃つまでの3日間を描いた映画である。主人公の行動などは実在の犯人の行動に従って実話に基づくものらしい。
主人公に精神病的な病名を付けようと思えば多分間違いなく何か付けられるとは思うのだが、それでは映画としては余り面白くない。描かれるほうも殺された方も救われないだろう。一人の人間が病的な偶像崇拝に陥ったときに、どういう顛末を辿るかの一例と表現すると、又ありきたりになってしまう。彼を愛すればこそ我が手で殺すことにより彼を永遠に独占する、というフレーズになってしまうのだが、しかし、多分そういうしかないのだろうと思う。
主人公がジョン・レノンに対してのっぴきならない思い入れを抱いているのは良くわかる。しかし、それがどうして「殺す」という所まで行き着くのかが、それでも良くわからないから何かの回答らしきものが得られるかなと思って最後まで観ていたのだが、うーん今一ピンと来なくて上記の紋切り型のフレーズしか思い浮かばない。巨万の富を得ておきながら真実貧しい人々への援助をしていない、つまり裏切り者だ偽善者だというモノローグもあるにはあるのだが、その部分だけなので説得力に乏しい。そこがメインなら、もっと演出があった筈だ。
また、この映画では主人公がビートルズ、ジョン・レノンの他に心酔していた邦訳名「ライ麦畑で捕まえて」(本書評欄2005年7月15日=原題「キャッチャー・イン・ザ・ライ」村上春樹氏訳あり)という小説が全編を覆い尽くし、主人公ホールデンの「偽善者は死ね」が何度か出てくる。レノンの偽善者性(があるとして)がテーマという風には見えないのだが。
本映画の標題「チャプター27」(=第27章)とは「ライ麦畑で捕まえて」が26章で終わっているので、その次の章をこの映画の主人公が書いたという意味になるそうである。
ただ主演のジャレッド・レトという男優はこの映画で初めて観たが、ほんとに演技かよと思うほどアブナイ雰囲気が良く出ていた。大したものである。
まぁ、観終わって楽しい気分に浸れるという映画ではない(寧ろその逆)。お薦めしないとまでは言わないが、その辺は覚悟して観に行って頂きたい。