快作。このドンデン返しには久しぶりに笑ってしまった。見事に騙されたという感じながら、しかもズルイとは思わない。大した構想力と筆力である。
帯に、「2004年版このミステリーがすごい!」「2004本格ミステリベスト10」の1位、且つ第57回日本推理作家協会賞受賞、第4回本格ミステリ大賞受賞」と謳ってあり、確かにその評価に恥じないミステリだと思う。
厄介なのは、この物語は現代日本に対する見事な批評になっているのだが、どうしてそうなのかを書き出すとラストの完全な種明かしになってしまう点である。それは流石にできない。本書が文庫本でありながら、しかも上記の通りの高い評価を受けながら、なお解説が付されていないのは、そのためであると思う。種明かしをせずに本書の文明批評性を解説することは不可能だ。世の中は広いので、それが出来る人もいるかも知れないが、そういう解説があればそれ自体是非読んでみたい(私は、本書評欄で時々解説自体を褒めることがあるが、文庫の楽しみは解説を読む楽しみもオマケでついているからである)。
元私立探偵が主人公のこの物語は、絶対、最初から順に読むべきである(ミステリーは皆そうなので当たり前だが)。でなければラストの騙された!という楽しみが半減どころか激減するだろう。